旅情電波発信局

ホラーゲームや映画やその他諸々の好きな事を書き綴っていくブログです。たぶんゲームの話題多め。

映画『来る』が好きなので全力で紹介する

中島哲也監督作品の『来る』がAmazonプライムビデオで配信が開始されました!
ホラー映画をベスト5本挙げるとしたら?と訊かれたら、この映画を間違いなく入れるほど『来る』が好きなので、できるだけその良さを伝えたい!


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 ©2018「来る」製作委員会

ということで原作との相違点も踏まえつつ、ネタバレになるべく配慮して『来る』を紹介したいと思います。

 

来る

来る

  • メディア: Prime Video
 

あらすじ
幸せな新婚生活を送っていた会社員、田原秀樹。ある日彼の会社に謎の来訪者が来てから、周囲で怪現象が多発するようになってしまう。愛する家族をなんとか守ろうと、友人の伝手を辿って助力を求めて知り合ったのは怪しいルポライターとキャバ嬢の霊能力者だった……。 

 

 

何が『来る』の?

映画『来る』の原作は『ぼぎわんが、来る』という小説です。
作者は澤村伊知氏で、2015年に日本ホラー小説大賞の大賞を受賞した栄えある作品です。
なので「来る」のは“ぼぎわん”と呼ばれる怪物なのですが、小説ではぼぎわんの正体を調査して迫っていくのに対し、映画ではそのあたりのくだりはほぼカットされています。

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 ©2018「来る」製作委員会

映画劇中でも「大事なのはどうして、ではなく、どうするかです」とのセリフがありますが、これは小説と映画の違いを端的に言い表すわかりやすい言葉だと思います。
映画の尺の都合もありますが、ぼぎわんの得体の知れなさが強調されています。
ぼぎわん自体も別物レベルでより強大で恐ろしいアレンジに。
小説ではぼぎわんに対抗するために、ぼぎわんが襲ってくる原因を追い求めるのですが、映画では対症療法的に解決に乗り出します。

そういう訳で、ぼぎわんについて詳しく知りたくなったら原作小説も併せて読むのがおすすめ。
小説と映画は大きくテイストが異なるため、どちらから触れても面白く読めるでしょう。
小説と映画、どちらのぼぎわんの扱いも甲乙つけがたく、どちらにも違った素晴らしさがあります。

『来る』は怖いの?

怖いです。
といっても、ぐわっ!と音やビジュアルで驚かしてくる安易なジャンプスケアではなく、緩急織り交ぜたあの手この手で怖がらせてきます。
しかしながら、『来る』で描かれているのは、怪物やグロの怖さというより人間心理のエグさ。
監督自身も「ホラー映画を撮っているというより、人間ドラマとして撮っている」と発言しているように、単なるモンスターや幽霊系の映画というわけではありません。
ですからホラー映画に忌避感のある人にこそ頑張って観て欲しい!

特に前半の人間ドラマパートは胸に「うっ」と来る生々しさがあります。必見です。
人によっては怪物が登場するシーンより、人間模様のパートの方がキツくて見ていられないという人も。
流石の中島哲也作品といったところでしょうか。

出演する俳優の演技も軒並み素晴らしいのもポイント。
人間の持つ二面性をどの俳優も見事に演じ切っています。
もうみんな素晴らしいので甲乙なんてとてもつけられないのですが、あえて一人挙げるとするなら、田原加奈役を演じた黒木華
幸が薄そうな女性を演じると右に出る女優はいないんじゃないかな……。
どのシーンとは言えないんですけど、途中で良い演技するんですよ!
あの笑顔!笑顔が最高!
黒木華Amazonプライム見放題で岩井俊二監督作品リップヴァンウィンクルの花嫁』も観られるので、『来る』で気になった人にはこちらもおすすめしておきます。
松たか子黒木華が共演している山田洋次監督作品『小さいおうち』も見比べると面白いかも。

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©2018「来る」製作委員会

 

登場する比嘉姉妹って何者?

比嘉琴子・真琴は霊能力者の姉妹。
二人姉妹ではなく、実は七人姉弟です。
琴子は原作小説では、怪異側にも名が知れ渡るほどの強力な霊能力者という描写があります。
映画だと身長が165cmある松たか子が演じている関係でスラッとした見た目ですが、小説だと小柄でポニーテールの女性で、能力と見た目のギャップがあるキャラクターです。

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©2018「来る」製作委員会

 

真琴も原作だとキャバ嬢ではなく、バーで働いている女性です。
昼に出歩くと鳥に集られてしまう難儀な体質なため、夜にしか働けないという事情があるため。
映画ではこの設定は無くなっているようですが。

ただし、真琴のビジュアルはまるで小説から抜け出たような完成度。
映画を観た後だと、小説を読んでも小松菜奈の演じる比嘉真琴で脳内再生してしまうほど。

今のところ原作に登場するのは琴子、美晴、真琴の三人だけです。
映画原作となった『ぼぎわんが、来る』の時点では両親、姉弟がみんな怪異によって命を落としており、残った家族は琴子・真琴の二人だけになってしまっています。
この設定を踏まえると、琴子が劇中で取った態度が理解しやすくなるのではないでしょうか。

ズバリ、映画『来る』の見どころは? 

中島哲也監督作品ならではの、映像と音楽のハイレベルな融合です。
特にハイセンスでかっこいいOPムービーや、
クライマックスの“祓い”のシーンは必見!!

使われている音楽は良い意味でホラー映画らしからぬ素晴らしい選曲。
サウンドトラックが思わず欲しくなります。
祓いの準備のシーンは穏やかな音楽と相まって「一体何を見せられているんだ……?」と困惑すること請け合い。


アンチJホラーとすらいえる新鮮な恐怖演出も見どころ。
Jホラーって舐めるようなカメラワークで、後ろの暗がりにいつの間にか誰か立ってて……という風な、お約束の演出が多くあるのですが、『来る』ではほとんど使われていません!
初見だとぼぎわん登場タイミングの予測がつかないことでしょう。

一見荒唐無稽な設定でありながら、厚いリアリティを感じさせる描写の数々も見逃せません。
一押しポイントはやはり、カプセルホテルで支度をする神職の方々のシーン。
あのシーンがあるだけでグッと展開が引き締まる良い描写です。
祓いのシーンと、後述する柴田理恵と並んで印象深い場面の一つですね。

個人的に好きなポイントはカメラワーク。
この映画はカメラの撮り方も人物描写の生々しさに一役買っていると思っています。
Jホラーって日常シーンはフィクス(固定)のカメラが多用されるように感じるのですが、この映画ではじわーっとほぼ常に動いています。
意識していないとわからないレベルの動きですが効果的で、Jホラーにありがちな無機質な印象をあまり感じません。
これは黒澤フィルムスタジオの特殊機材部を経た、撮影監督の岡村良憲氏の手腕によるものです。
注意してカメラワークを見ると新たな発見があるかもしれません。

宇宙一かっこいい柴田理恵!?

皆さんは柴田理恵にカッコいいイメージを持っていますか?
多くの方は持っていないと思います。自分もそうでした。
しかし『来る』を観れば、そんな既成概念は吹き飛びます。
『来る』には世界で一番柴田理恵がカッコいい瞬間が収められています。
柴田理恵のカッコよさを是非見届けてください!

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 ©2018「来る」製作委員会

映画を観た後に原作読んでも面白い?

ぜんぜんテイストが違うので、比べるとめちゃめちゃ面白いです。
先でも述べましたが、ぼぎわんの正体に迫るパートは小説にしかありません。
小説『リング』のように理知的に怪異を探る面白さは活字媒体ならではの面白さ。

それに登場キャラの性格が芯の部分を残してかなり変更されていて、新鮮な気持ちで読めると思います。
特に琴子お姉ちゃん!
琴子お姉ちゃんは映画だと近寄りがたい人物になっていますが、小説だとむしろ正反対の人間味を感じさせる優しい性格です。
真顔で冗談を飛ばしつつ仕事にあたるユーモラスな一面も。
例を挙げると、原作中ではヴィンテージものの除霊道具を突き付けながら「どう? いい仕事してるでしょう、これ」と軽口を叩きながら戦うような人物。
ギャップ萌えでとても可愛らしい。

琴子以外も、映画ではみんな性格や立ち居振る舞いが細かくアレンジされています。(民俗学者・津田大吾に至っては原作の唐草大悟という名前から変更されている)
基本的に映画版登場キャラの人間性は原作小説版からキツめになっています。
逆に言えば小説版は幾分か内容がマイルドなため、映画のドロドロをあらためて読むのはちょっと・・・・・・と尻込みする必要は無いと思います。

原作はどこから読んだらいい?

比嘉姉妹シリーズは今のところ刊行順に
『ぼぎわんが、来る』
『ずうのめ人形』
『などらきの首』
『ししりばの家』
の4冊が出ています。
時系列としては
ししりばの家→ぼぎわんが、来る→ずうのめ人形
の順番です。
『などらきの首』は短編集で、比嘉真琴と野崎の初対面の話や、野崎がオカルトライターになったきっかけの話などが収録されています。
もちろん先で述べたように、映画『来る』を観たのであれば『ぼぎわんが、来る』が一番おすすめです。
基本的には刊行順に読むのがスタンダードだと思います。
ですが、映画とあらすじがほとんど同じ話を読み直すのが面倒だ、という方がいらっしゃるかもしれません。
そういう方には『ずうのめ人形』がおすすめ。
『ずうのめ人形』は読むと4日後に死ぬ「ずうのめ人形の思い出」という小説原稿を巡るストーリー。
あらすじで分かる通り、貞子でお馴染みの『リング』を踏まえつつ、更に発展させた展開は見事の一言。
虚実が錯綜する展開にページを繰る手が止まりません。
また、『ずうのめ人形』をオススメする理由の一つが、映画『来る』の中に少し『ずうのめ人形』をオマージュしたようなシーンが登場するからです。
それに映画の比嘉真琴の人物造形は、『ずうのめ人形』に登場する比嘉姉妹の一人、比嘉美晴の性格が少し入っているように思えます。

一方で、比嘉琴子が登場する話を読みたい!という方は、琴子が霊能力を振るう様になった転機の話『ししりばの家』良いでしょう。
とは言え『ししりばの家』はちょっとエグいので覚悟が必要かもしれません。
4冊中で一番怖いと思いました。

まあ身も蓋もない言い方をしてしまえば、どの作品も面白いので長編3篇はどれから読んでも大丈夫です!
強いて言うなら『などらきの首』は『ずうのめ人形』の後に読んだほうがいいかもしれません。『ずうのめ人形』の登場人物が何人か登場しますので。


ちなみにぼぎわん、ずうのめ等、聞き覚えの無い響きの四文字のひらがながいずれのタイトルにも含まれますが、これは作者の作り出したオリジナルのもの。
どの作品でもこれらの言葉の持つ意味が重要な要素になるのですが、種明かしを聞くとよく考えつくなあと唸ってしまいます。

 

他の中島哲也監督作品に興味があるんだけど?

この記事を読んでいる人はAmazonプライムに入っている人が多いのではないでしょうか。
Amazonプライムビデオでは下妻物語』『告白』の2作品が見放題にあります。
ライトに楽しめるのは『下妻物語』ですが、『来る』で比嘉琴子を演じている松たか子が主演している『告白』と見比べてみるのが面白いです。
ちなみに『告白』はプロデューサーも同じ川村元気氏なので、テイストには通じるものがあるのではないでしょうか。
下妻物語』『告白』どっちも大変面白い作品なので非常におすすめです。

Amazonプライム見放題以外でも良いのなら、役所広司が主演の『渇き。』がおすすめ。
比嘉真琴を演じた小松菜奈長編映画初出演作

『来る』で素晴らしい演技を発揮している彼女ですが、『渇き。』でも恐ろしいほどの存在感を放っています。
『渇き。』の見所は小松菜奈と言っても過言ではありません。
当時『渇き。』を劇場で観た時は、すごい女優が出てきたものだと感心したのを覚えています。新人にして実力派の俳優に交じっても負けない魅力がすごい。
あと『来る』であらゆる意味で目立っている妻夫木聡が、『渇き。』では正統派なクズの役を演じています。『来る』とは別のベクトルでめちゃめちゃ憎たらしい役なので必見。比較的好漢を演じている印象の強い俳優ですが、『渇き。』はそんな印象を一変させるほどのインパクトある演技を見ることができます。

最後に

いかがでしたでしょうか。 
なるべく展開や結末のネタバレに気をつけて『来る』を紹介してみました。

原作小説も映画も素晴らしい作品ですので、この機会に少しでも興味を持っていただけると幸いです。
とにかくパワーがすごい映画なので、お盆の休みに是非ご鑑賞ください。

 

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