ホラーゲーム批評:The Last of Us Part II
雨が続きじめじめとした天気が続く近頃ですが、湿度と言えばそう、キノコですね。
ということでキノコ繋がりでなにかと話題作の『The Last of Us Part II』のレビューです。
作品の性質上ネタバレ全開なので注意!
未クリア者は読まないようにしましょう。 了承していただけたらどうぞ。
タイトル:The Last of Us Part II
販売 :Sony Interactive Entertainment
開発 :Naughty Dog
発売日 :2020年6月19日
ハード :PS4
価格 :7,590円(税込) ※デラックスエディション 8,690円(税込)
復讐心は悲しみの連鎖を産むだけですよ、エリーさん!
ストーリー
ソルトレイクの病院からの脱出劇から五年後、エリーとジョエルはジャクソンの街で平穏な日々を送っていた。
しかしある日、謎の男女の集団にジョエルが捕らえられ、凄惨なリンチの末にエリーの眼前で殺されてしまう。
復讐を決意したエリーは、恋人のディーナと共にジョエルを殺した犯人たちを追跡するのだった。
『The Last of Us Part II』はTPSに属するサバイバルホラーゲーム。
人がキノコのような菌類によってゾンビのような感染者と化し文明が崩壊してしまった世界で、唯一感染に対して抗体を持つ女性、エリーが今回の主人公。
前作ではジョエルがワクチンをつくる為にエリーを連れてアメリカを横断する冒険だったが、今作では冒頭でジョエルが殺害されてしまう衝撃の展開から物語の幕が上がる。
前作に引き続き、今作ももちろん感染者たちは健在。
健在どころか、シャンブラーなる新種すら登場する。
また地味にクリッカーが強化されていて、立ち止まって咆哮をあげた時に近くに居ると探知されるようになった。
前作プレイ者は注意!
ラスアスと言えばクリッカー
若干だが強化されているので注意!
とは言え、今作は人間同士のドラマに比重が置かれていて、感染者の存在感は希薄となっている。
序盤のイベントで大量に出てくるのと、中盤でラスアスには珍しくボス戦らしいボス戦があるくらいで、あとはちょっとした障害物程度の扱い。
ゾンビの扱いが軽い『Days Gone』よりも扱いが薄い。
必然ホラー味は薄れているので、ホラー要素を期待するのは微妙なところとなってしまっている。
まあ前作もそこまでホラー強くはなかったし些細な問題だな!
前作にあったクラフトや、パーツやサプリを集めての自己強化要素も踏襲。
既に前作時点で完成されたシステムだったこともあり、戦闘・探索の基本はほぼ同一。
前作プレイ済みならすんなり遊べるだろう。
というか、シナリオ面も踏まえると前作プレイしてから遊ぶべきである。
聴き耳による敵探知も健在。
拡張機能をONにすればアイテム探知や、より精確な敵探知も可能
更に本作はオプションによる機能がこれでもかというほど充実。
行き届きすぎるほどに細かい難易度調整や、アクセシビリティの調整が可能。
例えば難易度一つとっても自分の強さ、敵の強さ、手に入る物資の量、同行者の強さやら細かく調整できる。
このオプション設定の豪華さだけでゲーム史に残りそうなぐらい圧倒的。
個人的には聞き耳でのアイテム探知スキャンはさっさとONにしてしまった方が良いと思います。遊びやすさが劇的に向上するので。
やはり前作時点でゲームとして完成されていたため、それを受け継いだ2もアクション面では文句がない作品となっている。
もうケチつけるところがないぐらいの完成度。
圧倒的で類を見ない狂気的な作りこみ
今作はもう何といっても世界の作りこみが素晴らしい。
ちょっとした小物ですらきっちり作りこんであるし、どんな些細な物一つ取ってもこの世界で生きる人々の息遣いが感じられる。
例えば冒頭のジャクソンの街一つ取ってみても、お茶っ葉が入った瓶にはわざわざラベルが貼ってあったり、パトロールの当番表がある。
掲示板にはびっしり掲示が張り出され、街角では世間話をする人や雪遊びをする子供たちで溢れている。
ジャクソンの街だけでなく、ゲーム全編にわたってこんな調子。
そこらへんに転がってるちょっとした死体一つ取ってみてもドラマを感じさせるような死に様をしていたり、いまや誰もいない居住空間にも確かに誰かがそこにいた気配を残している。
“ポストアポカリプスの世界になったらどうなるだろうか”という、創作物が好きなら誰しも一度は考えたことがある空想に全力で一つの解答を提示してくるのが本作の最大の魅力である。
とにかく類を見ない凄まじい作りこみとしか言いようがなく、滅んだ世界が好きならあちこちを見て回るだけで余裕でお釣りが来るほど。
もはや丁寧な仕事を通り越して狂気と寒気を感じる。
雪の上を歩くとしっかり足跡が残るばかりか雪がさらさらと零れ落ちる様まで見て取れたり、鏡にしっかり物が映り込む、風にビニール袋が舞っている……といった自然現象までもが執拗に作りこまれている。
もはやゲーム機の中にもう一つの現実が展開されているような錯覚を覚えるほどだ。
執拗に緻密に構築された世界は、現世代におけるゲーム表現の一つの到達点といっても過言ではないだろう。
雪の作りこみ一つだけでもどんだけ労力かかってんだろ……。
普通のプレイヤーなら五分で通り過ぎるようなところすら異様に作りこんであるのが圧巻。
細かいところをいちいち見て回るプレイヤーならクリア時間がどこまで伸びるのか計り知れない。
ここまでの話だともう約束された神ゲーの予感しかしないんだが、残念なことに本作はそうはならなかった。
ならなかったんだよ。
だからこの話もここでおしまいにしたいんだが、そうもいかないので続きます。
人語を解す天才雌ゴリラ、アビー
さて、すでにご存じの方も多いと思うが、各所で賛否両論を巻き起こした本作。
その中でも最大の着火剤、それが新キャラクター“アビー”だ。
こいつこそはジョエルを殺した張本人であり、エリーの憎き仇であり、
また今作の主人公の一人でもある。
そう、プレイヤーはこいつを総プレイ時間の4割ぐらい操作するのだ。
ノーティドッグなんでそんな酷いことするの?
これは“復讐される方にも事情があった”というシナリオを描くための構成。
アビー編を通じて「アビーは前作のラストでジョエルに父親を殺害されていた」という驚天動地・空前絶後の衝撃事実が判明するのである。
……まあ前作やってたら薄々わかるよな!
意外でも何でもない過去に逆にビビる!
それから五年間必死に鍛え上げて立派にゴリラに転生したアビーだが、悲しきかなゴリラだけにプレイヤーに好かれるだけの人間性が足りていないのである。
ゴリラでももっと人間に好かれるゴリラはいっぱいいるし、アビーにはキングコングでも観て好かれるゴリラを勉強してて欲しかった。
それか髑髏島でひっそり暮らしててくれ。
ます物語冒頭でアビーとジョエルが出会うくだり。
感染者の大群に襲われて絶体絶命のところをジョエルとトミーに救われて、そこで相手が仇のジョエルだと知り仲間のところに誘い込んで殺害する……、という流れ。
普通相手が仇であっても、命を無償で救ってくれた相手を躊躇なく拷問して殺すか??????
ちょっとは躊躇したりしないか?
百歩譲って、まあ殺すのは殺すとしても、殺しちゃった時点でどんだけ釈明してもプレイヤーの好感度取り戻すのは至難の業じゃないかな……。
ところで、彼女はWLFという武装組織に属していて、WLFはスカーと呼ばれる宗教団体と反目しあっている。
この二つの団体は抗争の真っ最中でお互いに大量に死人が出ているんだけど、元スカーの子供たちに命を救われた時は命の恩人だからって、WLFと反目してまでその子供たちを助けるんだよね。
価値観ゆるゆるだな!!
さらにその事件がきっかけでWLFからも命を狙われる羽目になるんだが、その時は平気で元同僚を殺すことが可能。(一応プレイヤーの操作パートだから任意ではある)
仲間を裏切ったこともあんまり気にしてない。
こいつ一体なんなの? 何喰って生きたらこんな自分本位になれんの?
他にも、妊娠中の彼女がいる元カレに発情して、突然寝取りセックスをおっぱじめてしまったり、高所恐怖症のせいでドジを踏んで同行者と帰りを待つ人を危険に晒してまるで悪びれなかったりと、やりたい放題。
なんというかこう、せめてもうちょっとフォローというか手心というか……なんかなかったんですか……。
これでまだ普段性格が良いとかならわかるが、特にそういうこともない。
いや、別に(ジョエルを拷問して手酷く殺したこと以外)性格めちゃ悪いわけでもないんだが、いかんせん好感度のビハインドが酷すぎ&物語の要所で更に好感度下げてくるせいで、アビーのことがめっちゃめちゃ嫌いになってくる。
全体通して「アフリカで暴れまわる密猟者が雨に濡れる捨て犬保護した」ぐらいのフォローしかできてなくて、プレイしてるこっちとしては「いやお前が象撃ち殺して象牙で荒稼ぎしてたの覚えてるからな!!」なテンションである。
一番やべーなと思うのが、作中でアビーと関わった人間が誰一人幸せになってないこと。
ちょっとでも関わったやつ全員死ぬか死ぬほど不幸にしてるっていう。
ファイアフライもWLFもラトラーズも壊滅したからな!
もう運気を下げる生物兵器か疫病神かってレベルで、感染者よりよっぽどやべーぞコイツ!
もしかしたら寄生菌の発生自体がこいつのせいかもしれん。
価値観が首尾一貫しているとは言えない精神構造は、良く言えばリアルなんだけど、創作のキャラクターとしては感情移入が難しい。
エリーも首尾一貫はしてないんだけど、前作の好感度ブーストでなんとかもってる感じ。
クリア者でアビーが好きな人って全体の何%なんですかね。
俺は大っ嫌いです。
ゲームのテーマとして、アビーを描くこと自体は理解できるし、仮に試みが上手くいっていたなら善悪が混沌とした面白い作品になっていたと思うが、いかんせんこの雌ゴリラに共感できる部分が少なすぎる。
エリーとジョエルは前作がある分思い入れのあるプレイヤーが多いと思う。
だから本来ならその分を取り返すくらいアビーにプレイヤーを入れ込ませないと駄目なはずなのに、構成と脚本が悪くてアビーが全然好きになれない。
あざといぐらい普段は良い人な描写をするとか、好感度マイナスを取り返すぐらい良いキャラにしてくださいよ!
こんなエゴ丸出しのキャラ好きになれねえよ!
せめてアビー編とエリー編の順序逆にするだけでもマシになった気はする。
そもそもの発端となったアビーの父親にしろ、エリーを自ら進んで犠牲にしようと提案した人間で、エリーを(人類のためとはいえ)殺害しようとしたわけで。
その父親が返り討ちにあっても若干自業自得感が出てアビーの正当性薄れちゃってるよなーーーーー!!!
そこらへん「アビーの父親はファイアフライに強制されて嫌々エリーを執刀しようとしたが、ジョエルに殺されてしまった」みたいにしとけば良かったんじゃねえの?って百回ぐらい思った。
しかも全体の4割くらい操作パートあるのに、それでもキャラの掘り下げが十分でなくて、アビーの出番が足りてない。
こんだけ尺あって足りてないのはやはりシナリオ面での不備では?
結果的にはアビーは大目に見てもいけ好かない奴どまりでしかない。
確かに清濁併せ持つリアリティのある人物描写なのかもしれないが、それを主人公とした物語が見たいかと言われればハッキリNOだ。
まあこいつに限らず今作の登場人物はみんなちょっとずつ嫌な所があるんだが、アビーは特別嫌なとこ多い。
俺はアビーのことがもう嫌で嫌で仕方なかった。
操作も身が入らないし、死んでもいいやって感じで投げやりに操作してしまったほどだ。
ゲーム中はひたすら「こいつはゴリラなんだ」「人間社会の作法がわからないんだ」「生物多様性は尊重しないといけないんだ」と必死に自分に言い聞かせて先に進んでた。
なんかもうここまで来ると、単純にキャラ造形失敗して大惨事起きてるとしか思えないね。
物語の構造としてアビーとエリーが相似形になってるのは理解できるんだが、それにしたってやり方がまずいよなあ。
ここまで書いておいてなんだけど、アビーをゴリラ呼ばわりするのはゴリラの方々に対して甚だ失礼ですね。
ゴリラの方がこの記事を読まれていたら、すいません。謹んでお詫びします。
脚本と設定の粗が見える見える……
グラフィックも人物造形もリアル志向のラストオブアス2。
しかしリアル志向だからこそ、細かいシナリオの粗や人物描写のブレが気になって気になって仕方がない!!
まず最初に、ジョエルが殺されてしまうシーン。
ジョエルとトミーが素性のわからない人物や集団に気を許して油断するなんてありえない。
これは指摘多数で脚本家が直々に申し開きするほど。
「ジョエルがジャクソンの暮らしで丸くなっていた」ということらしいが、流石にあの人数でバカンスに来てるというはずもなし、警戒しないのは不自然。
だいたい20年間も密輸業者やらファイアフライやらで切った張ったで生きてきた二人が、あの場面で警戒怠る……?
20年の殺伐とした暮らしが5年の平穏な暮らしで帳消しになるのか?
同じ場面で湧いてくる大量の感染者も疑問。
高頻度でパトロールしてるジャクソン周辺で、クリッカー含む大規模な感染者集団がいるのって不自然じゃないか。
あり得るとしたら、「そこそこの集団がジャクソン付近に移動してきたところでクリッカー含む集団に襲われて全員感染した」なんだけど、ちょい無理があるよね。
序盤、トミーが兄のジョエルを殺された恨みで単身復讐へと旅立ってしまうのだが、前作や他の場面のトミーの描写からすると非常に違和感がある。
少なくともそんなに先走るような性格には思えないんだが……。
トミーは特にシナリオの都合で良い様に扱われてるように感じる。
中盤のエリーが妊婦を殺してしまったショックで観光地図を落としてしまうシーンもご都合主義的でしらける。
そもそも持ち運ぶ地図に自分の拠点の印つけてるのがアホすぎる。
捕まったり何かで荷物奪われたりすること想定してないの? 一日目で既に一回捕まって死にかけてるのに? もし捕まって地図を見られたら尋問される暇もなく殺されて、ディーナも襲撃されて終わるんですが。エリーは学習能力ないのか。
百歩譲ってそれは良いとしても、落としたことに気づかないか?
トミーと合流した後で自分たちの拠点説明するときに出すだろ。
出さなかったとしても、普通まだアビーを探せてないんだから水族館のあの部屋で軽くアビーへの手がかり探そうとするだろ。
エリーは前後不覚になってたとしても、あの場にトミーもジェシーもいるんだから誰かは死体漁ったり部屋を探したりを提案しないとおかしいでしょ。
なんのために苦労して水族館まで行ってるんだよ!
中盤アビーで訪れるグラウンドゼロも、WLFがあんなに出入りしている病院の地下に、あんだけヤバいラットキングが居座ってるってどういうことなん……?
壁ぶち抜いてくるようなヤバい奴が、人が騒がしく動いてる下で大人しくいたの……?
WLFの連中誰も地下を見に行ったりしなかったってこと?
もし誰かが扉開けて見に行ったんなら、その時にこじ開けて出てきてそうだよな……。
個人的に一番の脱力ポイントは、終盤エリーとディーナが家族で暮らしている農場。
子育てしながら二人であんな広い農場に住むとか無理だろ!!!
冒頭のイベントみたいに突如感染者が大挙して押し寄せてくることもある世界観で、あんな暮らしできるわけがあるか!!!!
そうでなくても野党に襲われるだろ! 女二人と乳飲み子なのに危機感が無さすぎる!
世界観無視で“家族と幸せに暮らすエリー”を描写したかったんだろうけど、他の部分ではリアリティを執拗に出してきてあそこだけアレはないわ!!しらけるわ!!!
今作はシナリオでやりたいことに余りにも引っ張られすぎて、不自然な部分がそこかしこに見られるんだよね。
要所でキャラが性格と状況無視で操り人形みたいにシナリオの都合で動かされているのが、透けて見えてしまう。
リアルに寄せようとしてるからこそ、より目に付いてしまう。
物語発端の、ジョエルが殺されてトミーとエリーが見逃される時点でもだいぶ苦しい。
はるばるジャクソンまで来て、ジョエルだけ殺してすんなり引き下がるなんてありえるかね。オーウェンの説得があるにせよ。
作中の善悪感も、人の命が軽い世界だとは思えないぐらい現代的で違和感が大きい。
復讐相手以外を殺すのは拒否する、妊婦を殺してショック、復讐に虚しさを感じて躊躇してしまう等々、平和な現実世界の価値観ならともかくとして、殺伐としたラスアス世界でそこまで気にすることか?って疑問に思えてしまう。
敵を何十人殺して平気なキャラが妊婦一人殺してショック受けるだろうか。
たぶん殺してきた敵の中にも妊娠初期の女性や小さい子供のいる父親とか居たと思うけど、そんなことを想像もせずにポンポン人殺してたのかエリーは。
ここらへん、急にこっちの世界の価値観が輸出されたみたいで気になって仕方がなかった。
平和な世界の価値観がトラックに轢かれてラスアス世界に異世界転生したのかもしれない。
ゲームプレイの足を引っ張るシナリオ
シナリオはとかく粗が多いだけでなく、ゲーム上にも問題点を落とす。
おかしいことにムービーシーンでは仇相手の殺害を躊躇するエリーやアビーだが、ゲーム内では情け容赦なく敵の人間を殺してしまえるのだ。
というか、ゲームデザイン的には敵を生かして進むよりも全滅させてから安全に探索したほうが安心で確実である。
つまり、シナリオ上では暴力を否定しているのに、ゲーム上では暴力を半ば肯定してしまっている。
この気持ちの悪い矛盾がなんとも言えず没入感を阻害する。
特に恨みも何もない敵勢力の兵士はじゃんじゃん殺せるのに、恨みの相手を殺すのに躊躇いを示すキャラクターなんてこっちは理解できねぇよ!
さっきまで平気で人の頭撃ちぬいてたやつが、ムービー入った途端に態度豹変させたらかえって気持ち悪いわ。
更に今作は敵兵士一人一人にはおろか、同伴する犬にも名前がついていて、敵兵がお互いに名前を呼びあったり、仲間の死体を見つけたら嘆いたりするという悪趣味な仕様がある。
プレイヤーに罪悪感を抱かせようとする魂胆らしいんだが、こちとらそんなの折り込み済みでプレイしているわけで、今更そんなことぐらいで狼狽えたりしないんだよなあ……。
ましてや前作プレイ済みの人なら容赦なく敵を殺してきたわけで、そんなこと慣れっこなわけだし。
反対に例え罪悪感に苛まれるプレイヤーがいたとしても、結局ストレスにしかならず、ゲーム的に楽しくはなくなるよね。
素晴らしい作りこみではあることは確かなんだけど。
ちなみにこういったゲームの作りが鼻についたので、反発して俺は出てくる敵兵皆殺しにして進みました。
操作パートでは何十人と殺してるのに、ムービーで人を殺してショックを受けるのが滑稽すぎて笑えて来るのでオススメの遊び方です。
しかもシナリオ上で散々「敵だと思ってた集団にもそれぞれ事情や仲間がいるんだよ」って露悪的なまでに描いてきといて、終盤に某世紀末救世主伝説に出てくるモヒカンみたいな荒くれ物のラトラーズって集団が出てくる。
こいつらは悪者だから殺していいよ!みたいな雰囲気で出してくるのがめっちゃめちゃ気に食わない!
プレイヤーに不快感を強いてまで描いてきた話が最後でブレちゃってんじゃねーかよ!
ゲーム的に敵が必要だからラトラーズって集団出しましたってのが見え見えでシラける。
(余談なんだけど、二人っきりでひっそり暮らしてるアビーの情報がジャクソンまで入ってきて、集団でヒャッハーしてるラトラーズの情報は入ってこないなんてことありえるんですかね……。考えるとすごく不自然だと思うんですが)
せめて敵のキル数抑えてクリアしたら、周回特典でステルス迷彩か無限バンダナぐらいくれ。
とはいえ、意図的にプレイヤーにストレスを与える構成になっていることは理解できるんですよ。
復讐の虚しさや、迷いつつあるエリーの心境をプレイヤーにも追体験させようとする意志はわかる。
でもそれをプレイヤーが楽しい・面白いと感じるかどうかは全く別の話。
結局のところ、プロダクトとしてユーザーに楽しさを与える娯楽作品なのか、それとも痛みを伴うほど生々しく人間を描き出すアート作品として振舞うのか、そこのところが混ざり合って中途半端になってる。
個人的に言わせてもらえば、プレイ時間が20時間超えの大作ゲームでユーザーの爽快感を軽視する作りは遊んでて辛い!!!!
少し進む度に「あなたが殺した相手は実はこんな気のいい奴だったんだよ」「あなたの思い入れのある前作主人公をボコボコにしてね!」みたいな気持ちを萎えさせる仕掛けを用意するのは、もはや嫌がらせの域。
ゲームとしてプレイヤーを盛り上がらせないようにしてるのは作風としてはわかるけど、この規模のゲームでそれをされるのはほんと辛い……。
せめて10時間程度のインディー作品ならまだしも。
そういった意味で、AAAクラスのゲームとは思えないぐらいチャレンジ精神に満ちた歪んだ作品が『The Last of Us Part II』なのである。
普通この規模の開発リソースかけてやるか?って衝撃は受けた。
受けたものの、それは「誰も幸せにならない上に、今更こんなに手垢にまみれた復讐譚を金かけてやるの?」みたいな呆れを伴う驚きである。
ぶっちゃけ、ジョエル殺してまでやるほど崇高なテーマでも独自性のあるテーマでもないと感じた。
こんなん打ち切り食らうタイプの少年漫画序盤でやる話ですよ。
ついでにゲームの構成的な話もすると、さあこれから復讐の旅が始まるぞ!って時にオープンワールド風のマップが始まるのもめっちゃ怠かった。
そもそもの話、シナリオ重視のゲームでオープンワールドって相性悪いと思ってる。
さっさと先に進みたいのに探索を半ば強制されるのが面倒くさい。
『メトロ エクソダス』もそうだったけど、大作だからって安易にオープンワールド要素持ち込むのは控えて欲しいなぁ。
全編オープンワールドにならなくって本当に良かった……。
総括
シナリオ以外は一級品。
シナリオは、はっきり言って不出来。
やりたいことも描きたいテーマもわかるものの、上手くいってるとは思えない。
ノーティドッグの技術力とこんだけの開発期間・資金をつぎ込んでこれなら、土台勝負するのが無理筋な挑戦だったんじゃないかな……。
せめてアビーの人物造形がマシであれば……。
感染で崩壊した世界で現実的な話が展開するのは良いけど、あまりにも現実的であろうとするがゆえに、単なる夢の無い話で終わってしまっているように思う。
別にハッピーエンドでもビターエンドでも良い。
創作に触れる人はたとえ悪夢であっても夢を見せて欲しいものだ。
しかしこの作品はひたすらリアルっぽくて面白みの無い物語で終わる。
確かにラスアス世界で幸せに生きることの難しさは理解できるけど、だからってひたすら予定調和に不幸になる話を見せられることに何の価値があるのか。
そこで波乱を起こし、プレイヤーを予想外の結末に導くことが脚本家の腕の見せどころじゃないのか。
今作のラストが予想の範疇どころかど真ん中過ぎてスタッフロールでいたたまれない気持ちになったわ!!
それに今更、散々やり尽くされた”復讐の虚しさ”を描くことに果たしてどれほど意味があるというのか疑問で仕方がない。
ただ、シナリオを差し引いても見る価値があるほど作りこまれた造形は見事の一言。
最高峰のグラフィックを体験するだけでもじゅうぶん元が取れる。
かなり人を選ぶが、トップクラスに質の高いゲームであることだけは間違いない。
ストーリーを除けば100点満点に近い出来だろう。
でもシナリオが気持ちを萎えさせてくるんだけどね!
この調子でHBOで予定されている実写ドラマ版は大丈夫ですかね……。
ということで、シナリオ以外は最高峰のゲームを遊びたい人には自信を持ってオススメできます。
HBOのドラマ版に不安を抱きつつ、また次回!
関連作品
ゲーム
・The Last of Us(PS3,PS4)
・・・・・・前作。ジョエルとエリーのアメリカ横断記。
と言っても、この記事読んでる人の9割はプレイしてると思うから説明不要か。
アニメ
・ガン×ソード
・・・・・・痛快娯楽復讐劇ロボットアニメ。
復讐をテーマに据えつつ、重いテーマを扱いながらも非常に楽しく観られる傑作。
主人公ヴァンが仇の鈎爪の男を見つけた際に見せる最高の表情は必見。
キャラ造形も巧みだが、特筆すべきは悪役となる鈎爪の男。
カリスマ性と得体のしれない不気味さを併せ持つ印象深さを持つ。
丁寧な伏線回収も相まってシナリオの完成度は非常に高い。
アクションシーンも格好良くて最高。
全26話なので、ラスアス2をクリアするぐらいの時間で余裕で完走可能。
バンダイチャンネル、dアニメストア等で好評配信中。
ラストオブアス2で疲れた心を癒したい人に超オススメ。