タイトル:最悪なる災厄人間に捧ぐ
販売 :ケムコ
発売日 :2018年8月23日(PS4) 9月20日(Switch)
ハード :PS4,Switch
価格 :3,600円(PS4パッケージ版) 3,000円(PS4,Switch DL版)
――ネタバレは最悪だ。
ネット検索が出来ない。
ネタバレ記事が潜んでいるからだ。
Amazonレビューも読めない。
ネタバレ警告なしにネタバレが書かれているかもしれないからだ。
ネタバレを踏むかもしれないと思うから怖い。
そんなの、最悪だと思った。
だからこの日、俺はネタバレ無しでレビューを書いた。
君は、このレビューを・・・・・・。
ということで、なるべくネタバレに配慮した形での『最悪なる災厄人間に捧ぐ』のレビューです。
ただし、このゲームは事前に一切情報を入れない方が面白いという事だけはあらかじめ断わっておきます。
どんなジャンルのゲームか知らないでやった方が良いぐらい。
それでも、どんなゲームか知りたいという方に、このレビューを捧げます。
不運に見舞われ、災厄に翻弄された“二人”の物語。
ストーリー
主人公の豹馬くんは、ちょっと変わった体質を持った小学生。ひょんなことから美少女のクロと一緒に暮らすことになったんだけど、ある日突然クロが5人に増えちゃった!5人のクロと一つ屋根の下で暮らすことになった豹馬くんの日常は、いろんなトラブルでいっぱい。 一体これから先どーなっちゃうの!? トキメキあり、涙ありのハートフルラブストーリー。
・・・・・・ごめん、忘れて。
いや、嘘は一切吐いてないんですけどね。HeartfulじゃなくてHurtfulの方ではあるんですが。
たぶんこの書き方に騙されてこのゲームを遊ぶと、死人が出ると思うので真面目にやります。
ストーリー
全ての生物が知覚できなくなってしまった少年・豹馬。
誰も見えず、誰の声も聞こえない、絶望的な孤独に苛まれる彼の前に、唯一まともに目に見える少女が現れる。
クロと名乗ったその少女は、誰の目にも映らなくなった“透明人間”だった。
透明人間しか見えない少年と透明人間の少女。
二人は助け合いながら共同生活を送ろうとした矢先、なぜか分岐した筈の5つの並行世界が繋がってしまい、五人の“クロ”が“豹馬”のもとに集う。
かくして始まった五人の“クロ”と“豹馬”の奇妙な生活。
様々な困難にぶつかりながらも、懸命に生きる“二人”は着実に絆を深めていく。
彼らの世界には、恐ろしい“災厄”が潜んでいることも知らずに・・・・・・。
.
『D.M.L.C』や『レイジングループ』といった話題作を世に送り出し、アドベンチャーゲーム界で勢いに乗るケムコ。
そんなケムコが、『結婚主義国家』『一緒に行きましょう逝きましょう生きましょう』を出しているウォーターフェニックスと手を組み、送り出したのが今回取り上げるタイトルの『最悪なる災厄人間に捧ぐ』だ。
公式略称は「さささぐ」だそうなので、以降はそっちの表記も使います。タイトル長いし。
シナリオ・イラストはウォーターフェニックスのR氏、設定等の監修を『レイジングループ』のシナリオamphibian氏が手掛ける。
そう、このゲームのシナリオとイラストは、たった一人が手掛けているのである。
なのにテキスト量は百万字、収録されているイラスト・立ち絵差分も相当な量。
絶対これR氏は五人に分裂して作業してるでしょ!?って分量である。
もしかしたら五人に増えるくだりはノンフィクションの可能性があるな・・・・・・。
「分厚い」「鈍器」でお馴染みの、京極夏彦氏の小説『姑獲鳥の夏』が約36万字らしいので、どんだけ分量があるかは推して知るべしである。
さて、公式でのジャンルは「限りなく透明で残酷な“災厄世界系”ノベルADV」となっていて、なんじゃそりゃあ!?となっている方もいるかと思うが、ざっくりと言えばセカイ系と呼ばれるジャンルにあたる話。
とはいえセカイ系自体がザックリした定義なんで、これだけだと曖昧ではあるけど、まあセカイ系でググって出てくる定義はだいたいこのゲームに当てはまる。
主人公・豹馬は、生きている生物が一切見えないし、出す音も聞こえないという、世にも不思議な症状に悩まされる少年。
なんと自分の身体すら見えないし、自分の声すら聞こえないという、恐るべき苦痛に苛まれている。
彼が唯一見ることができ、会話が出来るのが、“透明人間”のクロ。
彼女は周りの生物を見聞きすることは出来るけども、他人からは見えず、他人と話したり、触れることもできないという、豹馬と逆の症状に苦しんでいる少女。
そこで、クロは周りの人間の様子や言葉を豹馬に伝えることで豹馬を手助けし、豹馬はクロの衣食住の手助けをすることに。
豹馬はクロを通してしか世界と関われないし、クロも豹馬を介さないと世界に見てもらえない。
互いに依存しないと生きられない豹馬とクロの間で完結した、閉じられた世界。
その内で、二人がどう生き、二人の世界はどのような結末を迎えるのか。
そんな二人の物語が『最悪なる災厄人間に捧ぐ』なのだ。
危難を乗り越えて進んだ先に待ち受ける絶望
透明人間の少女と、透明人間しか見えない少年。
これだけでも十分に変わった設定の「さささぐ」だが、本作の特徴はそれだけには留まらない。
ストーリー説明にも書いたが、5つの並行世界が繋がって五人の“クロ”が現れるという、SF的な驚きの展開が豹馬を待ち受ける。
実はこのクロ達は、豹馬がクロに出会った時、どのソフトクリームを手渡したかで分岐した、5つの並行世界に存在するクロ達なのだ。
5つのソフトクリームのどれを渡したかでクロの性格が変わる
バタフライエフェクトって感じだ
ところでみそと納豆ソフトってどんな味がするんだろう
更に五人の“クロ”は繋がった5つの世界を移動することができ、それにしたがって物語は5つの世界の“豹馬”それぞれの視点が切り替わりながら進む形になる。
こうやって文章で一気に書くとわかり辛いけど、要所でわかりやすい図解も入るし、順を追って説明されるから、ゲーム中では設定を理解しやすいので安心してください。
図解がまた、欲しいタイミングでバッチリ入るから助かる!
そうしていくうちに、五人の“クロ”達はそれぞれに別の個性を持っていき、彼女達との生活はどんどん賑やかになっていく。
同時に、「なぜクロはこうなったのか」「そもそも透明人間とはなんなのか」という大きな謎にも、次第に切り込んでいくことになる。
この“謎に迫るプロセス”はいかにもケムコアドベンチャーというところで、ワクワクさせてくれるし、話を読み進めていく手が止まらなくなっていく。
シナリオはウォーターフェニックスなんだけど、ここらへんはやはり監修の手が入っているところなのかなって感じた。
そしてついに姿を現す“災厄”。
最悪としか形容できないほど理不尽なそれは、豹馬とクロ、そして世界をも蹂躙していく。
“災厄”がいったいどのような物なのかは実際に自分の目で確かめてみて欲しい。
えげつない、とだけ言っておこう。
ただ、これから遊ぶプレイヤーにあえてアドバイスするなら
どんな事があっても頑張って。
見出した活路の果てに見えるもの
災厄を乗り越えて進む間、物語の様相も、さながら“クロ”のように様々な面を覗かせる。
序盤だけの印象だと豹馬とクロとのラブストーリーに思えるかもしれない。
しかしプレイしていくうちに、そんなに簡単な言葉で言い表せる物語ではない事に気づく筈。
それこそが「さささぐ」の真骨頂。
要所要所で「こういう話だと思ってたでしょ?それ違うから」と製作者に語りかけられているかのような、急転する様相に目を白黒させるのが面白い。面白すぎる。
それと同時に、胸を抉るような展開の数々に色んな意味で精神がボロボロにされる。
一つエンディングを迎える度に放心状態になったし、時には台詞一つ、文章一つでコントローラーを操る手が止まった時もあった。
こっちの心を見透かされて、弄ばれるような話に心を掻き乱された。
読み終えた今も、暇があればこのゲームのことを反芻してしまう。
じゃあこの物語は一体何なのか?
もちろん、ラブストーリーというのも間違いじゃない。
豹馬とクロ、二人の成長譚でもあるだろう。
でも自分にとっては少し違う。違うと思った。
けれど、この結論はここには書かない。
それはネタバレとかじゃなく、そうするべきだと思うから。
豹馬の目を通してこの物語を追ったプレイヤーだけが、理解するべきものだと思うから。
最後までこの物語を読み終えた時の感想は、人によってそれこそ分岐する並行世界のように多様化するだろう。
でも、どれも間違いじゃない。
おそらくどれもが正しい『最悪なる災厄人間に捧ぐ』の姿なんだと思う。
納得せざるを得ないクロの可愛さ
とまあ、色々と書いてきたけど、やっぱり
さささぐを語る上で一番外せないのはクロの魅力。
さささぐは設定上どうしても登場人物が少ないのだが、その分魅力が濃密に詰まっている。
5人のクロや幼少期のクロなど、さささぐでは様々な“クロ”が見られるんだけど、そのどれもがきちんと一人の“クロ”であり、別の“クロ”でもある。
とにかくこの“キャラの芯のブレなさ”が見事。
一歩間違えればそれぞれが別人になってしまい、コンセプトが破綻しかねない題材を見事にまとめ上げている手腕の巧みさがすごい。
主人公の豹馬とのバランス感覚も絶妙で、か弱いだけのヒロインではなく、かといって頼りになりすぎもしない、繊細なラインをついたキャラになってる。
だからこそ、豹馬との共依存な関係性が浮き彫りになってくる。ここが面白い。
クロだけじゃなく、豹馬のキャラクターもしっかりと筋の通ったキャラクター造形になっているのも外せない見どころ。
きちんとした行動原理に基づいて、物語の起点として重要な役割を果たしていく、まさしく主人公にふさわしいキャラクター造形になっているのが良い。
特に序盤なんて、若干8歳の小学生とは思えないような漢気と知恵を度々見せるその様は、豹馬くんというより「豹馬くんさん」とさん付けをして呼ぶべき。
しかも豹馬くんさんがそうなった背景にまできっちり動機付けが用意されてるあたりの細やかなシナリオ構成が素晴らしいね。
全体的に「なんでこのキャラがこう動くのか」「なんでこのキャラはこういう言い方をしたのか」という、キャラの言動が執拗なまでに丁寧に描写されているのが、ひたすらすごいとしか言いようがない。
このようにキャラ造形の見事さについてはいくらでも語れることがあるんだけど、そんな堅苦しい話は全部どっかに投げ捨てて
クロ可愛い
ってことが言いたいんですよ。
クロ可愛い。
ほんとクロ可愛い!
もうね、このゲームが終わる時には、
クロが存在してるだけで嬉しい
っていう境地にまで達するからね。達せざるを得ない。
さささぐって、そんなゲーム。
そんなクロ達の声優はすべて小鳥遊ゆめさんが演じているんだけど、少し声を聞いただけでどのクロが話しているかがわかる演じ分けがすごい。
幼少期のクロの声から、だんだん成長していくクロの声音まですべてきっちり演じきっている。
その分、クロのボイスの量がとんでもない事になっててびっくりするけどね!
ところで、この小鳥遊ゆめさんの情報がググってもぜんぜん出てこないんだけど、いったいどういう人なんだろう。
入念に考えられた精巧なシナリオ
クロの可愛さも勿論のことながら、さささぐの素晴らしい点はシナリオ構成の上手さ。
一見ただの日常パートに思えるところが、後の伏線や布石になっているところがどれだけ多い事か。
「そんなところまで拾う!?」ってところまで後の展開に影響してるので、じっくりと読み進めていくのが吉。
特に序盤は、どの世界の“豹馬”視点なのか、に注目して読み進めていって欲しい。
一度クリアしてから読み直すと、なるほど!と思わず手を打つ場面が目白押し。
暴露モードこそないものの、もう一度読み直したくなる完成度の高さに唸る。
全部わかってから読み直すと、印象がガラッと変わるシーンがそこかしこにあるんだよね! 1周目は何気なく流してた台詞にゾッとしたり!
最初のプレイ中は、おそらく「違和感」を覚える箇所がいろんな所にあったりすると思うんだけど、それらのほぼ全てが後に回収され、納得させられる展開がとにかくすごい。
特に本編クリア後に出現する追加シナリオが圧巻。
内容に関しては一つも触れられないけどね!
本当はネタバレとか気にしないでアレコレ書き殴りたいのを、必死に我慢してます!
このゲームのシナリオでひっかかる所があるとすれば、作中での「世界のルール」的な部分が受け入れられるかどうかって部分かな。
ネタバレを避けるとモヤッとした書き方になって申し訳ないんだけど、途中で判明する“ある事実や存在”がわりと突拍子もなく出てくるので、拒否反応起こす人はいそう。
ただし、きちんと“ルール”に乗っ取って話は展開するから、そこさえ飲み込んでしまえば、楽しめることは保証する。保証します!
総括
傑作アドベンチャーゲーム。
完成度の高さが圧巻。
キャラの描写も、シナリオの構成も見事としか言いようがない。
システム面も『レイジングループ』とほぼ同一なこともあってか快適。
シンプルだけど扱いやすくわかりやすいUI。
テキスト量は豊富で、ボリュームはかなりある。
それなのにパッケージ版で買っても3,600円っていう価格破壊な値段ね!
DL版なら3,000円!
レイジングループの時も思ったけど、
ケムコADVの値段安すぎるって!
ケムコADV以外でこんな事あまり思わないもん!
明確に欠点があるとしたら、先が気になりすぎて寝不足になることかな。
ケムコADVは平日にやってはいけない。
必ず次の日がお休みなことを確認してから遊ぼうね!
個人的には今のところ2018年で遊んだゲームの中では 一番面白かったゲーム。
ついでに直接的な繋がりはまったくないんだけど、このゲームの“あるギミック”に関する姿勢がちょうど『レイジングループ』と対になっているのが面白いので、併せて遊ぶと面白いと思います。
たぶん意図してやってることだと思うんだけど、そこんところどうなんでしょうね。
あと最後に、これは人によるけど、途中の展開で心が苦しくなります。
もしこれから遊ぶ人は、睡眠を良く取って、温かくして、栄養ある物を食べて、元気な状態で遊んでください。
ちゃんと生きる力を蓄えてから遊んでね。生きて。死なないで。
関連作品
ゲーム
・一緒に行きましょう逝きましょう生きましょう
・・・・・・ウォーターフェニックスのノベルゲーム
・レイジングループ
・・・・・・ケムコの人狼ホラーアドベンチャー