ホラーゲーム批評:Until Dawn -惨劇の山荘-
Until Dawnのネタバレ若干有りのレビュー。
ネタバレ気にする人は注意してね!
ネタバレ無し版はニコニコのブロマガ版にどうぞ
タイトル:Until Dawn -惨劇の山荘-
販売 :Sony Computer Entertainment
開発 :Supermassive Games
発売日 :2015年8月27日
ハード :PS4
価格 :パッケージ7,452円(税込) ダウンロード版6,372円(税込)
雪山の山荘……絶対人が死ぬ(偏見)
ストーリー
休暇を楽しむために山荘に集まった10人の若者たち。
若者の中の一人「ハンナ」は仲間から嫌がらせを受け、雪山に飛び出してしまう。
「ハンナ」の双子の姉妹「ベス」が後を追うが、2人は行方不明となってしまう。一年後、残された8人は双子の兄「ジョッシュ」の呼びかけで再び山荘へ集まる。
閉ざされたはずの山荘で8人は自分等以外の何者かの存在に気付き始める。
彼らの周りで奇怪な現象が起こり始め、
楽しいはずの休暇はやがて恐怖の夜へと変貌する。自分たちしかいないはずの山荘を脅かす謎の存在。
次々と起こる怪奇現象。吹雪によって閉ざされた逃げ場のない雪山。彼らは果たして、忍び寄る死の運命から逃れることができるのだろうか…。
『Until Dawn - 惨劇の山荘 -』 プロモーションビデオ
『Until Dawn -惨劇の山荘-』のジャンルはホラー/アドベンチャー。
山荘に集まった八人の男女が自分たち以外の何者かの脅威に怯えつつ、生存を目指す……というもので、典型的なクローズドサークルなシチュエーションで物語が展開する。
一年前の悪戯が後に降りかかる恐怖の原因に
バタフライ効果を象徴する幕開けである
若者たちを狙う謎の殺人鬼
はたして殺人鬼の真の狙いとは
そしてその正体は
何と言っても目を引くのはリアルで美麗なグラフィックで、実在の俳優を忠実に取り込んだグラフィックはまるで実写かと見紛うほど。
しかもムービー部分とプレイアブルな部分はシームレスで、ムービーかと思ったら突然操作できるようになって驚く。
PS4でもグラフィック上位のクオリティで、まるで映画のようなゲームという形容がぴったりだ。
実際に操作できる場面
ムービーと操作可能な場面にグラフィックの差がほぼ感じられない
最初に遊んだ時は驚くだろう
実際、このゲームにはハリウッドで働くスタッフが多数起用されており、プレイヤーが介入できる映画作品とでも言うべきタイトルになっている。
また、明確な主人公というべきキャラがいないのも特徴で、主要な全ての登場人物の生死はプレイヤーの選択に左右される。
そして誰が死のうが物語は進行する。
群像劇的に物語は進み、ゲームオーバーが一切無いというのが特徴だ。
いかにもファイナルガールな雰囲気のサム
でも選択次第では普通に死ぬ
演じる女優はHayden Panettiereで、名前で画像検索すると露出度高い画像ばっかり出てきてビビる
みんなが大好きなエミリー
どんなキャラでも生き残らせることができるし、殺すこともできる
そこはプレイヤーの自由だ
初見プレイでエミリーをどう料理するかに、プレイヤーの腕とセンスが問われる
というわけで、極論を言えば適当に操作してるだけでも絶対にエンディングまでたどり着くという、ますますゲームと言うより映画寄りな本作だが、どのようにしてプレイヤーはこの物語に介入していくのか? 次の章ではその点を見ていこう。
生き残ったキャラはエンディングのスタッフロールに登場する
辿った物語の展開によって細かく話す内容が変わるので面白い……んだけど
だけど……周回がつらい……
蝶が羽ばたいたくらいで短期では何も起きない
本作の特徴として宣伝されており、ゲーム冒頭でもムービーつきで説明される本作のシステム、それが“バタフライエフェクトシステム”だ。
バタフライエフェクトとは、「ブラジルの蝶の羽ばたきが起こした風が、テキサスの竜巻の原因となる」といったような、些細な物事が思いもよらない大きな事態を引き起こすきっかけとなる事を指した言葉で、カオス理論の初期値鋭敏性を説明する時に使われる喩えでもある。
日本では「風が吹けば桶屋が儲かる」という江戸時代から伝わる諺が似たような意味で使われる事が多い。
本作では、ある「登場人物が取った行動=プレイヤーの選んだ選択肢」が、思いもかけないタイミングで他の人物に作用し、人物の運命を左右することがある……という風に謳われているのだが……
プレイ中に度々登場する選択肢
選択によっては後々のキャラの行動に間接的に影響を及ぼす可能性がある
可能性はあるがほとんどない
だいたい直接的な影響で終わる
バタフライ効果っぽさは微妙
はっきり言って誇大広告気味。
ぶっちゃけバタフライエフェクトの本来の意味の、予想困難な因果関係といったシーンはほとんどなく、ほとんどが直接的な、一般のアドベンチャーゲームでよくあるような選択肢。
風桶理論で譬えれば、「手当たり次第に桶を壊せば桶屋が儲かる」ってなもんで、そんなの当たり前じゃねーか!!って塩梅。
実際のゲーム中の例で言えば、「殺人鬼から逃げる場面で、走って逃げるor隠れるの二択を迫られて、走って逃げたら回り込まれて捕まっちゃいました!」みたいな感じで、それをバタフライエフェクトとは言わん!!
ゲーム最序盤の「射撃場に迷い込んだリスを撃ったら、なぜか鳥がヒロインを襲って、後に殺人鬼に隠れる際に見つかる原因になる」って箇所が一番バタフライエフェクトしてて、他はほとんどがバタフライエフェクトでもなんでも無い。しかもその箇所にしたって鳥が襲ってくるのが唐突すぎてあんまり演出が上手くないような……。
しかもこのゲーム、物語の筋は一本道。
有体に言えば、「誰が生き残るか?」だけで、他の展開はまったく変わらない。
更に一部のキャラは最終章まで何があっても生き残り、QTEを全失敗しようがどんなに不利な選択肢を選ぼうが最終盤まで生き残る。
蝶が羽ばたいても竜巻も台風も起きず、ただそよ風が吹きすぎていくのみ。
やぱり蝶の羽ばたきなんて無力だったんだ。
“本作の重要なシステムであるバタフライシステムシステムは、登場キャラクター同士の関係値にも大きな影響を与える。”(公式サイトより引用。原文ママ)
とあるように、プレイヤーの選択はキャラクター同士の好感度にも影響を及ぼす。
もうここまでいっちゃうと何がバタフライエフェクトだって感じだが、これによって若干選択肢が変わったりする……っていうけど、これ普通にギャルゲーとかによくあるシステムな気がするぞ。
ゲーム中メニューを開くとその時点での操作キャラのパラメーターが表示される
これによってほんの僅かに展開が変わる事が稀にある
稀です
ただ、本筋には影響は無いとはいえ、選択肢の数や、細かいキャラ同士の掛け合いの変化はかなりの数が用意されている。
小さい変化だけを追っていくのが好きな人には楽しいゲーム……と言いたいところだが。
リプレイ性が劣悪すぎて選択肢の変化を負うのが面倒。
「セーブデータは1つだけ」「オートセーブ」「チャプターが1つ一時間弱程度かかるのにイベントスキップなし」「キャラクターの移動は徒歩のみ」
と、どうやっても周回プレイに時間がかかる仕様。
しかもバタフライエフェクト感を出すために多くの選択肢はチャプター間をまたいで影響を及ぼすため、ちょっと違う展開を見る為に数時間の再プレイはザラ。
選択肢の多さがウリの一つのゲームにも関わらず、アレコレ選択肢を試すのが苦痛になってくる。
クリアすればチャプターセレクトが解禁されるものの、選んだチャプターの最初からしかプレイできない。無いよりははるかにマシだけど不便なレベル。
しかもチャプターセレクトのフラグはクリアデータの物が保存されている。
例えば、「前のチャプターに戻って前回クリア時に死んでいたあるキャラを生存させた後、それ以降のチャプターをセレクトで遊びなおしても、そのキャラは死んだまま」
そのキャラの生存エンディングが見たいならそこの時点から通しプレイ必須ということね。
面倒臭っ!
このゲームには収集要素もいくつかあり、それらをすべて集めるトロフィーも存在するので、トロフィー狙いでもなかなか面倒臭いことになる。
収集物の一つトーテムポール
拾うと未来のビジョンが見られるのだが、移動速度が遅い本作ではそもそも探すのが面倒
一つ取り逃すと泣きたくなる
取り逃したら取り逃したところのチャプターから通しプレイ必須。
周回プレイしない、トロフィー取らないと割り切って遊ぶプレイヤーには楽しいゲームと思いきや、そんなプレイヤーにもこのゲーム最大の敵が立ちふさがる。
不完全だけど、健全なゲームの形
このゲームの最大の問題点は、酷すぎるローカライズ手法。
ゲームで残虐描写が規制されるのは日本ではよくあることで、例を挙げれば血の色を全て緑色にするというぶっ飛んだ対応をした(その後、パッチで改善)『ダイイングライト』(2015)や、死体を削除した『シンギュラリティ』(2010)、発売そのものが見送られた『Dead Space』(2008)など、枚挙に暇がない。
本作もCERO Z区分でありながら規制を免れなかった作品の一つで、日本人ユーザーの予想遥か斜め下を行く斬新な規制で物議を醸した。
暗転ドーン
なんと、人体の切断面が見える場面はほぼ全て画面を暗転させるという、おざなりすぎる修正が全編にわたって施されている。
おかげさまで、ホラーゲームのある意味キモとなる、人物の死亡描写がほとんどにわたって音声のみ繰り広げられるというラジオドラマ状態に。
しかも当たり前ながら、終盤になるにつれて人物の死亡するペースも加速していくので、物語が佳境に入るほど暗転シーンが入って萎える。
なかでも酷い所は「ドアを開けた瞬間、登場人物が“そこにあるもの”を目にして驚愕する」というシーンが完全に暗転してしまってて、日本版だと一体何があったのか一切わからないという酷さ。
問題のシーン。
何があるんだよ!?
このゲームの長所は「人物の生死をプレイヤーが握れる」「美麗なグラフィック」なので、その二点を潰す措置に開いた口が塞がらない。
せっかくキャラの死に様を拝みたいと思って頑張ったのに、あんまりだ!(サイコ)
これにはさすがにユーザーの不満が爆発し、現在のAmazonレビューが投稿数400件越えで平均☆2つという惨状に。
発売時期が近いタイトルに先述の『ダイイングライト』があったこともあり、一時期はゲームの残酷表現の規制に関して議論が巻き起こった。
個人の所感では、これ以降はあまり過度なグロ規制がされなくなったように感じる。『バイオハザード7』はグロ有or無ver.を分けて売るなどの工夫も見られるようになった。
『サイコブレイク』『ダイイングライト』『Until Dawn-惨劇の山荘-』の3作品はPS4グロ規制御三家と勝手に思ってるんだけど、この三作品がある程度の指標や教訓になってるような雰囲気はある。
しかし、過激な表現を適切にゾーニングするためにCEROがあるのに、18歳以上しか買えないCERO Zでこんな過剰すぎる規制が行われてしまうと、果たしてCERO Z区分の存在する意義ってなんなんでしょうね。
残酷表現の規制には思う所あるのでそのうちきちんと記事を書きたい。
Until Dawnってどんなお話?※ネタバレ注意
※ここからネタバレ
さて、映画のようなゲームでは最も重要な点。それは脚本である。
記事の冒頭に載せたトレイラーのように、いかにもクローズドサークルで起こるサスペンスやスラッシャー映画のような雰囲気の本作だが
後半からモンスターパニックものになる。
殺人鬼の騒動は実は狂言で、実は山荘のある場所は「ウエンディゴ」と呼ばれる怪物が人々を襲う恐怖の山だった……という展開に。
ウエンディゴだよ!
一撃で首をもぎ取るすごいやつだよ!
獲物を嬲り殺しにする設定どこにいった
銃じゃ殺せない防御力と怪力を備えた怪物
じっとしてるものは見えないお茶目な一面も
映画好きには有名なロバート・ロドリゲス監督の『フロム・ダスク・ティル・ドーン』みたいなノリ(タイトル的にも意識していると思われる)で、あれ?こんな話だったっけ!?ってぐらい方向性が変わる。(一応伏線はあるが……)
おそらくトレイラーの映像から期待してこのゲームを買った人は肩すかしを味わうこと請け合い。
正直、一発ネタの飛び道具みたいなストーリーだから、ストーリー面でも周回する気が失せるっていうのもある。だってゲームの半分ほどを占める殺人鬼パートが全部茶番なんだぜ?
だが、「唐突にウエンディゴが出てくるとかプレイヤーを馬鹿にしてる!」とか起こるのは早計というもの。
このゲームの脚本家の二人のうち一人、ラリー・フェセンデン(役者としても活動してて、Until Dawnでも謎の男として出演)は過去にある映画を監督している。
それが『チル CHILL』(2001)
原題は『Wendigo』
わかりやすい!
そしてもう一作、『地球が凍りつく日』(原題『The Last Winter』2006)
こっちもウエンディゴが出るそうです。
つまり、この脚本家が関わってる以上、ウエンディゴが出ない方がおかしい。
ウエンディゴが出ることに文句を言う方が野暮なんですよ!
本作の脚本家の一人、ラリー・フェセンデン
ウエンディゴ大好きおじさん
本編ではウエンディゴの解説謎の男役で出演
続編のUntil Dawn:Rush of Bloodにも出演
そう、ジョン・ウーが鳩を飛ばすように、押井守がバセットハウンドを出すように、ウエンディゴが出てくることも作家性です。いいね?
ところで『Until Dawn -惨劇の山荘-』関連作の『Until Dawn:Rush of Blood』『The Inpatient -闇の病棟-』を先に遊んでしまっている場合、本作にウエンディゴが出ることはバレバレのはずで、そういう人達がこのゲームを改めて遊んだらどういう感想を抱くのかはとても気になります。
総括
映画のようなゲームの一つの形。
暗転は抜きにしても、グラフィックは素晴らしく、プレイヤーが介入できる面白さもあるが、「映画みたいなゲームだとこういう弊害があるよね」と考えつく悪いポイントがモロに出てるゲーム。
硬直して分岐の乏しいストーリーや、演出重視での周回プレイのしづらさなどで、それらがかなり気になる。
暗転の件はただただ、酷い、の一言しかなく残念。
別にグロシーンが見たいわけじゃないので規制されても大して文句は言わない自分ですら、このやり方はちょっとどうかと思うぞ。
キャラをどう殺すかの部分は面白いのに暗転のせいで面白さを損なっている。
シナリオは低予算ホラーっぽさが漂ってる(というか故意にそうしてると思われる)し、ある意味で豪胆なツイストが効いてるので好き嫌いが分かれそうな内容。
間違ってもサスペンスやスラッシャー映画要素を期待してはいけない。
ただ、映画っぽさの表現は十二分に発揮されているので、そこを楽しめるかどうかにかかってる一本。
初見プレイ時は楽しいのは確か。だけど二周目以降はガクッと価値が落ちるのも確か。
一周は8~10時間程度で、価格はパッケージ版7,452円。ダウンロード版は6,372円。
暗転が無い北米版は実は日本版より安く買えたりするが、当然日本語が収録されて無いので頑張って英語を覚えよう。北米アカウントあるなら$19.99で買える。
ところで、残酷表現はほとんど規制されている本作だが
エミリーはなぜか規制されてないの何か意図を感じる。
たぶん愛だと思う。
関連作品
・ゲーム
Until Dawn:Rush of Blood
・・・本作の続編となるガンシューティング。
The Inpatient -闇の病棟-
・・・本作の前日譚
・映画
フロム・ダスク・ティル・ドーン
・・・物語の構成が類似する作品
ディセント
・・・同じく後半からモンスターパニックになる映画
雰囲気としては上のフロム・ダスク~より近い
バタフライ・エフェクト
・・・バタフライエフェクトを扱ったおすすめ映画
チル CHILL
・・・脚本家が共通のウエンディゴ映画
地球が凍りつく日
・・・同上
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